ちいさな洞窟

娘との日々

手を使う

きのう歩いて出勤する道のとちゅう、家々の庭に赤や黄のバラや、名前の分からないきれいな花があちこちで咲いているのを見ました。アジサイの葉も急に茂って、ぐんぐんと育っているようです。そういえば、そろそろ朝顔のタネを植える時期ですが、家のなかを探すと、あれ、タネが見あたらない…。どこにいっちゃったんだろう。
 
さて、さて、ちーちゃん。
おそとで、あそべていますか?
 
ちーちゃんと一緒に遊んでいて、また、お友だちとあそぶ様子などを見ていて、気がついたことのひとつが、あなたは手が汚れることを嫌う、ということです。
 
ごく小さいころはタイヤ公園などでよくしていた砂場遊びも、3歳くらいを境にぴったりと止めてしまった感があります。というか、もともと砂遊びには、それほど興味がなかったようにも思います。砂場に裸足で入り、手足を泥んこにして、服もどろどろにして遊んでいる子もときどきいましたが、あなたはその方向には行きませんでした。
 
駒沢公園内のリス公園にある大きな滑り台に登るときには、スロープの脇にある突起物や手すりを頼りに登っていくのですが、これが砂でよごれていたりしていると、あなたは手でさわるのをきらって、無理して足だけで登ろうとしていました。それを見たとき、「あ、似ちゃった」と思いました。
 
そう。その癖、というか、よごれたものに手を触れたくないという性質は、ぼくに似ています。そっくりです。だから、手を汚したくない、という気持ちは、ぼくにはよくわかります。ぼくも派手な砂場遊びを好んだことはありませんし、体じゅうを泥や砂で汚しながらあそんだ記憶もありません。ただ、幼少時に育ったのが、町内の家々を田んぼや柑橘類の畑がぐるりと囲む田舎(静岡の)でしたし、近くの川のひとけのない、草の生い茂る土手で、台風で流されてきた大木を使って秘密の基地ごっこをしていたくらいですから、それなりに服や手足をよごしながらあそんでいたはずです。ひとの田んぼに入って、おたまじゃくしをさらってきて育てたり、空地に生えた草を食べたりしていたので、子ども時代はわりと奔放でした。

それでも小学1年生の10月に東京に引っ越してきてから、遊び方も清潔になってしまったというか、土や泥や砂との接点が以前にくらべてだいぶ少なくなってしまいました。それからだと思います。手をよごして遊ぶのが苦手になってしまったのは。

手が汚れるのを嫌う、手を使いたがらない、という性質は、はっきりと弱点だと思います。都会育ちの大きな弱点かと思います。同じ東京ではありますが、農家を営んだ、おおばぁば。ちーちゃんも抱っこされたことのある、おおばぁばの手。土と格闘した大きな、強い手です。一方、土に触れないぼくの手は、ひ弱な手ですね。
 
この20年間弱は、ぼくは電車のつり革もろくに握ることをしていません。「潔癖症」とまではいかないけど「ケッペキなひと」と言われても仕方がないところです。このコロナ禍の時代では「手でモノに触らない」のがマナーになり推奨されるようにもなりそうですが、長い目でみると、手を使わないのは、動物として退化の道を歩むことになります。
 
弱点は克服しないといけません。
 
ただ、ぼくは楽観的です。このケッペキ癖は環境によってすぐに変化すると信じているからです。20歳代のころ、タイを旅行したとき、パンツを4、5日も取り替えなかったことがありました。日本の夏場には、1日に2度もパンツを着替えていたぼくですが、タイ旅行では、パンツのことなどまったく気になりませんでした。4、5日経って「あれ、そういえばパンツを替えてないな」と気がつきました。そして、じぶんのケッペキ癖が環境で変わることを体験して「なんだ、そんなものか」と思ったのを覚えています。この癖は固定されたものではなくて、環境次第なのだな、と。
 
ところでちーちゃんは、石を拾うのが好きですね。公園や空き地、路上で、小石が転がっている場所を見つけると、しばらくの間、その小石をいくつか見比べて、選んだ石を持ち帰ったり、ぼくにプレゼントしてくれたこともあります。あなたにとって、その小石は、宝石だったのかもしれませんね。いま、ぼくのパソコンのデスクトップ写真は、園服を着て、小石を片手に微笑む、あなたの写真です(毎日眺めて仕事をしています)。この小石はまさに宝石に見えます。
 
地面に落ちた小石を拾うこと。手を使って小石を拾うこと。その時間をいっしょに持てたことは幸せでした。あなたにはこれからもそういった時間を大切にしてほしいと思います。

さて、土と格闘するという文脈において、東京のど真ん中、代々木上原の「どろんこ公園」は衝撃でした。この話はまたこんどしましょう。ああ、ちーちゃん、いつか田舎暮らしがしたいなあ。
 

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今朝、通勤時に見つけた紫陽花。