ちいさな洞窟

娘との日々

多摩川台公園 04

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『まほうつかいのちかみち』 作・佐藤さとる 絵・村上勉

 

(「多摩川台公園 03」からのつづき)

 

多摩川台公園からみて北側にある河川敷に、ちーちゃんとぼくは降り立ちました。そこは初めて行く場所です。いつもの多摩川とは違う風景ですが、ぼくらはいつものように、ふたりでいろいろとおしゃべりをしながら歩きました。

 

小さな野球場がいくつかあり、子どもや大人の試合を横目にみつつ、二子玉川の方向にゆっくり歩いていきました。そこで中校生たちが一斉にキャッチボールの練習をし始めたのをしばらく眺め、その後もさらに北へ向かうと、周囲には人影が少なくなってきました。

 

河川敷には草むらが広がり、青々と茂っています。川岸のほうには背の高い草が生い茂っていて川面が見えないくらいです。空は広くなった気がしました。ときどき犬の散歩をするひとなどが通りかかる程度で、ほとんど誰も見えなくなりました。

 

どこか、東京ではない、田舎の風景が広がっています。

 

ぼくたちはここまで電車も使わずに、てくてくと歩いてきました。住んでいる「都会の真ん中」からここまでは30~40分ほどでしょうか。住んでいる町とはまったく様子の違う、別の場所にワープしたような気分になりました。まるで『まほうつかいのちかみち』の物語の主人公になった気分です。そう、それは、夜、眠る前にあなたと一緒に読んだ長い物語絵本。初めての町で迷子になった男の子が、不思議なおばあさんの力を借りて、ひげのおじさんの運転するボートで自分のまちまで案内してもらい、無事に帰宅する。そういう話です。男の子は、自分の住む町には海がないのに、舟に乗って帰ってきたことを不思議に思っています。ぼくはそれと同じように、自分の町からそう遠くない場所にこれだけの自然があることが不思議でならなかったのです。

 

「のどかだなあ」。ふたり自然のなかで、解放感にひたりました。ちーちゃんは小道を踊りながら走っていき、とても楽しそうでした。高く伸びた草を手でかき分け、踏み越え、手を伸ばせば水に触れそうなほどのところに座りました。川岸はコンクリートで補強されていますが草だらけです。あなたの手を握り、「きれいな流れだね」「田舎に来たみたいんだね」と話しながら、川を眺めました。ゆっくり流れているように見えますが、きっと底は深く、下のほうは荒々しく流れているように感じました。向こう岸にもひとはいません。すこし怖い気もします。

 

ぼくはちーちゃんの手を握りなおしました。
心境はやはり『まほうつかいのちかみち』の主人公と同じです。そして宮沢賢治が描いたイーハトーブの風景はこんな感じなのかなと思っていました。

 

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またこの「2018年4月29日」を、ちーちゃんといっしょに過ごすことができたら、どんなに素晴らしいでしょう。ぼくは待っています。

 

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