ちいさな洞窟

娘との日々

宝来公園からの帰り道

その日、宝来公園から帰るとき、ぼくらは追いかけっこをしていました。駅から放射線状に伸びる道の一つで、立派な教会がある道です。ちーちゃんは2歳だったと思います。ちーちゃんは大きな笑い声をあげながら走っていて、ぼくはあなたを「まて、まて~」と追いかけていました。

 

そのとき、笑顔でぼくらを見つめるおばあさんとすれ違いました。「たのしそうな親子。かわいい娘さんですね」というふうな表情でした。彼女をちらと見て、ぼくはアッと思いました。そのひとは緒方貞子さんでした。緒方さんの顔はテレビで何度も見ていましたし、そのあと詳しいひとから、緒方さんのお住まいなどを聞いたうえで、やはり間違いないと思っています。

 

国連難民高等弁務官として難民支援活動の最前線に立ち、国際協力機構 (JICA) の理事長も務めた立派な方です。ちーちゃんがこれから学ぶ教科書にも登場することでしょう。

 

緒方さんとはその後、宝来公園のなかにある階段でも、すれ違いました。そのときもあなたに笑顔を向けてくださいました。昨年、緒方さんが亡くなられてから、その存在の大きさに改めて気づいたかのように、新聞では彼女の功績を伝える記事を見ます。そして、記事をみかけるたびに、ちーちゃんと宝来公園で遊んだ日々を思い出します。