ちいさな洞窟

娘との日々

頭の先

あなたが生まれてくるところをすぐそばで見ていました。

 

しばらく黒い頭の先だけが外に出ていて、

その下の頭や体は、なかなか出てきませんでした。

頭がつっかえていたので、お母さんも本当に大変そうでした。

 

お母さんはベッドの鉄パイプを力いっぱい握っていて、

パイプとお母さんの手に挟まれた僕の腕が抜けなかったくらいです。

ぼくも無我夢中で、腕が抜けない状態にあったことを

後になって、ぼくの手に跡が残っているのを見て気がつきました。

 

病院の先生がしばらく引っ張ったりして、

あなたの体がすべて出てきたときには、

あなたの体じゅうに小さい傷がたくさんできていました。

 

生まれるって大変です。

生んだお母さんも大変でした。

ぼくはふたりを見て「がんばったね」と心の底から思いました。

 

ぼくがつい最近「ちーちゃんのことが好きで好きでたまらない」と

ついポロっと言ってしまったとき、ちーちゃんは照れていたね。

でも、ほんとうのことです。

 

生まれたての、傷だらけのあなたを見たときに、

スイッチが入るようにして、ぼくはあなたの父親になったのです。

 

頭の先だけが出て、なかなか生まれなかったあなたが、

いまや誰よりも大きな声で話す、

陽気でとっても明るい女の子になりました。

 

ぼくは、うれしくて、うれしくて。