ちいさな洞窟

娘との日々

演出家 その2

きのうの夜、おふろには入っていて、こんなことを思い出しました。
 
あなたが4歳後半から5歳のころ、おふろに入るとき、ぼくが先に入ってあなたを待つようなことがありました。そんなとき、あなたと、こんなやりとりをしました。
 
「いらっしゃいませ~。何名さまでいらっしゃいますか?」
「ひとりでーす!」
「おタバコはお吸いになりますか?」
「すいませーん!」
「ではこちらの席になります。どうぞおかけくださいね」
「ありがとうございまーす!」
 
狭い脱衣所でサっと服を脱いだちーちゃんは、おふろのドアをあけながら、ぼくとそんなやりとりをしながら、入ってきました。ぼくはレストランのウエイターになって、あなたを出迎えました。けっこう長い期間、このあそびをしましたね。
 
ドアの向こうからなかなかレストランに入ってこないこともありました。ドアの向こうで息をひそめるあなた。隠れているんですね。ぼくは「あれー? お客さん、帰っちゃったのかな」などと言って、ドアの不透明なすりガラスに顔を当てて、脱衣所のほうを見ました。ガラスに接して凹んだぼくの顔がおかしくて、ちーちゃんは大笑いしました。そして、あなたもドアに顔をギューッとあてて、変顔競争をしましたね。
 
そのころ、おふろのなかでうたった歌は「おはなしゆびさん」。「このゆび パパ! ふとっちょ パパ~」を変えたこんな歌でした。あなたの足や手の小指を軽く引っぱって、「このゆび ちーちゃん かわいい ちーちゃん うまうまうまうま アブブブブブブ おーはなし する」。そして、同じく遊び歌の「ずいずいずっころばし ごまみそずい」もやりました。ぼくも歌詞を覚えていなかったので、ふたりで一緒に何度かYouTubeを見て、歌詞と手指のうごきを研究しましたね。
 
おふろは、毎日、劇場のようなたのしい場所でした。